原作者 | かめくん |
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登場キャラ数 | 男:5、女:4 |
ジャンル | ダーク・SF |
セリフ数 | 137 |
目安時間 | 分 |
利用規約 | 配布元とURL書いてってことです |
提供元 | 音楽作品を制作している1次創作グループ |
メディア |
舞台設定 |
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※作中の【】で括られている"私"の台詞は、 すべて独白で展開するナレーションの様なものなので、 淡々とした雰囲気で読み進めていただければと思います。 |
登場人物 | 性別/声 | セリフ数 | その他 |
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私 (わたし) |
♀ | 83 | 中学2年生。14歳。 引っ込み思案で人と会話するのが苦手だけど、 頭の中ではとても おしゃべりな女の子。 映画やドラマ、小説と言った物語が好き。 今は亡き父の影響で、SF作品を好む傾向がある。 |
母親 (ははおや) |
♀ | 21 | 女の子(私)の母親。 夫が亡くなってからは、女手ひとつで育てている。 脇役(兼用可) |
おじさん |
♂ | 11 | 脇役(兼用可) |
数学教師 (すうがくきょうし) |
♂ | 8 | 脇役(兼用可) |
家庭科教師 (かていかきょうし) |
♀ | 4 | 脇役(兼用可) |
女子生徒 (じょしせいと) |
♀ | 4 | 脇役(兼用可) |
男子生徒 (だんしせいと) |
♂ | 1 | 脇役(兼用可) |
刑事A (けいじ) |
♂/両 | 2 | 脇役(兼用可) |
刑事B (けいじ) |
♂/両 | 3 | 脇役(兼用可) |
宇宙人さん (うちゅうじんさん) |
両 | 0 | 住所不定、年齢不詳。 自称『宇宙連邦の公僕』。 とある仕事で地球にやってきた。 発展途上の地球人に対して、 何かと悪態をつくことが多い。 |
001 | 私 | 【平成20年9月21日夜。私は死にました】 |
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002 | おじさん | 「すまんなぁ、堪忍やで・・・まさか、こないヤワやとは思わへんでん」 |
003 | 私 | 【その晩、九州にある祖父母の家から飛行機で帰宅途中だった私ですが、 突然空から落ちてきた隕石に当たって墜落死。 不幸なことに、隕石は飛行機の主翼をかすめ折っただけで、 機体が地面に叩きつけられるまで私たちは意識を保っていました】 |
004 | おじさん | 「せやけど、空中分解せえへんで良かったで。 不幸中の幸いってヤツやな!おかげで、君の体探すの楽で済んだわ」 |
005 | 私 | 【あれが私にどれ程の恐怖を味わわせたのか、この人は知らないのでしょう。 きりもみ回転しながら真っ逆さまに落ちる機体。機内はまさに地獄絵図。 地面に到達するまでの3分間、それが続いたのです。 正直言って、空中で爆散・即死の方がまだマシでした。 まったく、命の恩人でなければ流石の私も・・・いえ、違いましたね。 正確に言えば、この人は命の恩人とは言えません】 |
006 | おじさん | 「多分、ワイが君らに直接近づくんはやめた方がええわ。 君らかて、お魚さんとは空気中で一緒に住まれへんやろ? それと似たようなもんや」 |
007 | 私 | 【地上で粉々になった私の肉片から、私の体を再構築しただけで、 そもそもの墜落原因がこの人にあるらしいじゃないですか。 怒るどころか呆れてしまって、どこからどう文句を言えば良いのか検討も付きません。 強いて言うなら、飛行機に私以外の家族が乗っていなかったのが『不幸中の幸い』ですよ】 |
008 | おじさん | 「今かて、代わりにその辺に落ちとったおっちゃんの体借りて 話しとんねんから・・・回りくどいったらあらへんで」 |
009 | 私 | 【側頭部が欠けて中身が見えている頭をかきながら、悪態をつくおじさん。 どうやらこの宇宙人さんは、人の体に入り込むことが出来るようです。 痛くないのでしょうか?まあ数分前の私は、これ以上に酷い状態だったわけですけど】 |
010 | おじさん | 「ところで、音波で交信するんは初めてなんやけど、 ちゃんとこれ通じとるんかな?聞こえとったら返事してや」 |
011 | 私 | 「・・・うん、聞こえてるよ」 |
012 | おじさん | 「おー良かったよかった。通じとった。 ホンマ今どき音波で交信しとるとか、君ら地球人くらいのもんやで」 |
013 | 私 | 【つくづく私もそう思います。 喋るのが苦手な私にとって、この交信手段は不利益しかありませんでした。 頭の中を直接相手に伝えられたら、どんなに楽か・・・少なくともこの14年間、 人との会話で得をした例(ためし)がありません】 |
014 | おじさん | 「まあ、そんなことはどーでもええわ。 とりあえず、色々聞きたい事あると思うんやけど。 今あんまし時間ないねんよなぁ。手短になら答えるで」 |
015 | 私 | 【おっと、突然やって来ました質問タイム。 もちろん、聞きたい事は山ほどあります。 このチャンスを逃すわけにはいきません。 さてさて、まずは何を聞いてみましょうか。 あまり時間はありませんよ? はい、早速ひとつ目の質問どうぞ】 |
016 | 私 | 「えっと・・・おじさんはM87星雲の人?」 |
017 | おじさん | 「いや?違うで。もっと都会からや。 てかどこの田舎やねん、そこ。M87とか聞いたことあらへんで」 |
018 | 私 | 【あれあれ?おかしいですよ?私が聞きたいのはそんなことだったんですか? 確かに今と状況は似てますけど。あれは空想特撮のお話です】 |
019 | おじさん | 「どうせワイの住んでた所とか、教えたところで君らには理解でけへんと思うけどなぁ・・・ 特異点の向こう側とか、見たことあらへんやろ?」 |
020 | 私 | 【どうやら私も、流石に混乱しているみたいですね。 無理もありません。辺りにはバラバラになった機体や、 誰のものとも分からない肉片が散乱しているのですから】 |
021 | おじさん | 「あー、そろそろ騒ぎ聞きつけた人間とか来るかもせえへんな。ワイ、死骸に戻るわ。 ほな、また後で落ち着いたころに連絡するさかいに。詳しい話とか、その時にでも」 |
022 | 私 | 「・・・お、おーきに?」 |
023 | おじさん | 「ええってええって、気にせんといてや。 こっちも、君が生きてやな仕事にならんさかい。ほなな!」 |
024 | 私 | 【そう言ってブクブクと血の泡を吐いたかと思うと、その場に崩れ落ちてしまいました。 もうこのおじさんが動くことはないでしょう。 何だか釈然としませんが、今はこれで納得するしかないようです】 |
025 | 私 | 【それから私は病院に運び込まれたものの、翌日には退院することが出来ました。 あの事故で無傷なわけですから、お医者さんもびっくりです。 実は墜落直後、私の体は奥歯が二本と左手の薬指、そして頭皮の一部しか残ってなかったと知ったら、 お医者さんはどんな顔をしたでしょうね。 一度も非行を犯したことがなかった私は、この日初めて母に泣かれました。 そんな母の姿を見て、とても本当の事は言えなかったですけど】 |
026 | 私 | 一ヶ月ほど経って、取材やら事情聴取がひと段落すると、 ようやく落ち着いた毎日が戻ってくるようになりました。 あの宇宙人さんとの会話も、事故のショックで見た夢か何かだと思い始めていた頃 |
027 | 母親 | 「ご飯よー、降りてきなさーい」 |
028 | 私 | 「はーい」 |
029 | 母親 | 【いつものように食卓に着こうとした私は、母がおたまを持ったまま固まっているのに気がつきました】 |
030 | 私 | 「あれ、お母さん?」 |
031 | 母親 | 「・・・」 |
032 | 私 | 「ねぇ、お母さん?大丈夫?」 |
033 | 母親 | 「あー、あー」 |
034 | 私 | 「お母さん?」 |
035 | 母親 | 「あーあー、テステス・・・」 |
036 | 私 | 【一瞬母がおかしくなったのかと思いましたが、すぐにピンと来ました。だから私は慌てませんよ。 ええもう、どうせならこのままご飯を頂きながら相手をするくらいの心持ちです】 |
037 | 母親 | 「テスト!テスト!え、聞こえとる?あれ、これつながっとんのかな?」 |
038 | 私 | 【ばっちりつながってますよー。悪い夢だと思いたいくらいに。 宇宙人さんにとって、私の母は電波の悪いケータイくらいにしか思ってないのでしょう。 まったくもって人でなしです】 |
039 | 母親 | 「まあええわ。恐らく聞こえとるでしょう・・・やあ、お疲れさん。久しぶりやな。元気にしとったか?」 |
040 | 私 | 「うん、まあ・・・おかげさまで」 |
041 | 私 | 【母の頭が欠けているわけでもないのに、あの時のおじさんの顔が脳裏にチラつきます。 しまった、ご飯なんて食べ始めなければ良かった】 |
042 | 母親 | 「そうかそうか!体の再構築の方も問題なさそうやな! もしこれで君に何か異常があったら、ワイがクビになるとこやで・・・」 |
043 | 私 | 【私が今こうして温かいご飯を食べていられるのも、宇宙人さんの不祥事隠蔽工作のおかげと言うわけですか。 もし神様がいるなら、私は神様に感謝するべきでしょうね。この人ではなく、慈悲深い神様に】 |
044 | 母親 | 「何はともあれ、予定通り今日から始めさせてもらってるで。短い間やけど、よろしゅうな」 |
045 | 私 | 「・・・予定通り?」 |
046 | 私 | 【さも当然のような口ぶりで話されても、私には何のことだかさっぱりです。 一体何を『よろしく』されるのでしょうか? 知りたいような、知りたくないような・・・あ、から揚げ美味しい。何だかとっても嫌な予感がします】 |
047 | 母親 | 「あれ、まだ言うてなかったっけ?君は*****に・・・アレ? *****、*****!*****!」 |
048 | 母親 | 「あ~、そうかぁ。この音、君らには発音でけへんのんか!不便やなぁ」 |
049 | 私 | 【どうやら、人類の限界がそこにはあったようです。 何度試せど、母の口からは空しく空気の漏れる音しか聞こえませんでした。 首に青く血管を浮き立たせている母が貧血で倒れないか、とても心配です】 |
050 | 母親 | 「しゃーない、君らにも分かりやすいもんに例えよか。 せやなぁ・・・丁半博打!博打ィ!?ちゃうな・・・裁判員制度?」 |
051 | 私 | 【どちらか片方だけだったら私にも分かったのに・・・ 二つ並べられると、皆目検討もつきませんね。ざーんねん】 |
052 | 母親 | 「とにかくや。君はこっから遠い遠い宇宙の秩序の為に、 厳正で公正なる抽選の結果選ばれた、大切な『判定代理人』やねん」 |
053 | 私 | 「判定?私が何か決めるの?」 |
054 | 私 | 【今日のおひたしは絶妙な味加減ですね。思わず上機嫌になります】 |
055 | 母親 | 「せや。君ら微生物には分からんかもせえへんけど、 今どき異星人同士の揉め事を解決するのに、単に戦争するだけじゃ決着つかんのんや」 |
056 | 私 | 【おやおや?何だか今、さらっと超高次元から見下されたような気がしますね。 私たちを微生物扱いとは・・・人類の尊厳の為、私はここで一度怒っておくべきなのでしょうか?】 |
057 | 母親 | 「なんせ、破壊力だけで言うたら銀河4つ5つまとめて消し飛ばせるくらいのもんが、 普通に子供の玩具の電池に使われとるからなぁ・・・ 君らかて、勝手に戦争に巻き込まれて、知らん内に銀河ごと消滅するとかかなんやろ?」 |
058 | 私 | 【いきなり銀河とか言われても、私にはあんまりピンとこない比較対象ですね。 東京ドーム何個分でしょうか? もっとも、東京ドームで例えられても、 個数が5ケタを越えた時点で想像もつかない 大きさになっちゃいますけど】 |
059 | 母親 | 「まあそんなわけで、いざこざを平和的に解決する方法として、 ランダムで選ばれた君みたいな第三者にサクッと決めてもらおうと。 まあ大体そんな感じやな」 |
060 | 私 | 【システムは何となく把握しましたけど、宇宙人さんの言う『微生物』なんかに、 そんな大事そうなことを決めさせて良いものなのでしょうか? もしかすると、いま私の肩には遠い宇宙の存亡がかかっているのかも知れません。 そう考えると、何だか緊張してきますね。ワクワクします。 どんな判決を下してやろうかしら。微生物の名の下に】 |
061 | 私 | 「私は・・・何すればいいの?」 |
062 | 母親 | 「あー心配せんでも、君は普段どおりに生活してくれたらええ。 君の行動を観察して、こっちの判断基準で順次判定していくさかい。 せやなぁ。今日は君のおかげで、δ(デルタ)宇宙域の****星系で 続いとった勢力争いに、一応の折り合いがついたわ。おおきにやで」 |
063 | 私 | 【うーん、何と言いますか。 これほど実感の湧かない感謝のされ方も初めてです。 はてさて、私は今日一日なにをしたっけな?】 |
064 | 母親 | 「ホンマはあんまし言うたらアカンねんけどな・・・ 昼間、学校で数学の教師に腹立てたやろ?」 |
065 | 私 | 【あー、そう言えばそんな事もありましたね。私はあの先生が苦手です】 |
066 | 母親 | 「あの後、腹いせにシャーペンの芯折ったやろ? アレが決め手やったなぁ~。 もう、こうズバッと!気持ちがええくらいの一撃やったわ。 アレでもう****星系の首脳陣が一斉に黙ったもん! いやぁ、君にも見せてやりたいくらいやったなぁ・・・あーでも、君には見えへんか。 ンマ、君らが光学でしか視認でけへんのが残念やで」 |
067 | 私 | 【なるほど、つまり私はサイコロと言うわけですか。コイントスのコイン、くるくる回るルーレット、 日本地図に投げ込まれるダーツと言っても良いですね。 私たちをモノ扱いしたり、微生物扱いしたり、この宇宙では地球人に人権はないのでしょうか。 どうやら人類は、地球に留(とど)まっておいた方が良いようですね。 誰かさんの台詞じゃないですけど】 |
068 | 母親 | 「今かて、先にから揚げから食べたやろ?良かったな。 これで***の難民2億人の人道支援が可決されたで。 君が辺境の惑星人にしては、良心的な心持っとって助かるわ。 ワイも一々、後味悪い思いせんで済むしな」 |
069 | 私 | 【褒められているのか馬鹿にされているのか・・・ 話を聞く限り、この宇宙人さんも悪い人ではないんでしょうけど。 おや、母の様子がおかしいですよ? こめかみがヒクヒク痙攣を始めています】 |
070 | 母親 | 「あー、そろそろやな。 この辺にしとかな、このおばちゃんの体がアカンなるわ・・・ほな、明日からもこの調子で頼むで。 また報告しに来るさかい。ほなな!おおきに!」 |
071 | 私 | 「・・・お、おーきに」 |
072 | 私 | 【ガクッと椅子に座り込むと、母は動かなくなりました。 おじさんの時を思い出して一瞬ヒヤリとしましたが、眠っているだけのようでひとまず安心です。 次の日には、何事もなかったように目を覚ましてくれました。 もちろん、母はかなり慌てていましたけど。 『病院に行こうか』とか言ってます。 宇宙人さんのせいで母に後遺症とか残ったら、一体どこに訴えれば良いのでしょう? 宇宙人さんから賠償とか保険とか、おりるのでしょうか】 |
073 | 私 | 【それからと言うもの、宇宙人さんはちょくちょく私の前に現れるようになりました。 もちろん、人の体を借りて。 現れるタイミングも、誰の体を乗っ取るのかも、 すべては宇宙人さん次第。こちらの都合なぞ、お構いナシです】 |
074 | 私 | 【そのうち、だんだんと宇宙人さんの現れるタイミングが分かるようになってきました。 規則性と言うよりも、出現する予兆みたいなものですね。 何となくですが、ぞくぞくするような寒気を首筋に感じるのです。 宇宙人さんの波長でも、受信しちゃっているのでしょうか? こんなことを真面目に言っていると、いよいよ頭がおかしい人みたいで怖いですね。 ホント、誰にも言えませんよ?こんなこと】 |
075 | 数学教師 | 「おい、聞いてるのか?」 |
076 | 私 | 「・・・はい」 |
077 | 数学教師 | 「まったく、最近のお前は特に酷いぞ。授業中でも、こうして話をしてる時も、ずっと上の空じゃないか」 |
078 | 私 | 【あーあ、まったくうるさい人ですねー。いつもの事とは言え、いい加減うんざりします。 正直、宇宙人さんの相手をしている方がまだマシですよ。 今この場で、この先生の体を借りて宇宙人さんが出てきてくれれば、どんなに嬉しいでしょうか。 思わず飛びついて歓迎したくなりますね。きっとあとで後悔するでしょうけど】 |
079 | 数学教師 | 「事故で大変だったのは分かるが、かと言って学生の本分である学業を 疎かにして良い理由にはならないぞ。自分よりもっと苦労している人間がいる。 それが社会ってもんだからな?お前だけが辛いんじゃないんだ」 |
080 | 私 | 【はぁ・・・先生のこういうデリカシーのないところが嫌いです。 人が抱えている傷を簡単に掘り返さないで欲しいですね・・・少しイライラします】 |
081 | 数学教師 | 「他の先生方がどうされているかは知らないが、俺は公平に点数をつけるからな? 補講を受けたくなかったら、しっかり頑張るんだ。いいね?」 |
082 | 私 | 【例えば、私が赤点を取って補講になったら、宇宙のどこかで戦争でも勃発するでしょうか。 もしそうなったら大変ですよ? 地球も無関係ではなくなるかもしれません。一度、宇宙人さんに聞いてみましょう】 |
083 | 数学教師 | 「おい、聞いてるのか!」 |
084 | 私 | 「分かりました。相談してみます」 |
085 | 数学教師 | 「相談?あー、そうだな。親御さんとも、しっかり話し合ってだな。今後の事を・・・」 |
086 | 私 | 「はい・・・失礼します」 |
087 | 数学教師 | 「お、おい!まだ話が終わってないぞ!まったく・・・」 |
088 | 私 | 【職員室から出たところで、宇宙人さんに乗っ取られたのであろう女の子に話しかけられました。 これ幸いと、さっそく聞いてみたのですが、『公平な判定の為に教えられない』そうです】 |
089 | 私 | 【ここでも『公平』ですか・・・一体、『公平』って何なのでしょうね? こちらは全人類の命運がかかっていると言うのに。 一生懸命な人にとって、『公平』と言う言葉ほど不公平な言葉はないように感じます】 |
090 | 私 | 【仕方ありません。今までの判定結果を参考に、少し自分で考えてみましょう】 |
091 | 私 | 【あらら、気付くと女の子が倒れてしまっていますね。彼女は今日一日、目を覚ますことはないでしょう。 かわいそうに。気付いた先生たちが、慌てて保健室まで運んでいきます】 |
092 | 数学教師 | 「なんだ、お前。まだこんなところにいたのか。後は先生に任せて、次の授業に備えなさい。 確か、次は調理実習だったろ?」 |
093 | 私 | 「すみません・・・そうします」 |
094 | 私 | 【ん?そう言えば・・・】 |
095 | 私 | 【私がとった行動で、『どこかの問題が解決した』とか言う話を聞いても、 『どこかで問題がこじれた』と言う話は聞いた事がありませんね】 |
096 | 私 | 【果たして、これは単なる偶然なのでしょうか?】 |
097 | 私 | 【確かに、私のようなおとなしい人間がとる行動によって、 極悪非道な判定結果が出ないのは理解できます。 そう言う意味では、宇宙人さんも安心して見ていられるのでしょう】 |
098 | 家庭科教師 | 「はい。今日は魚を包丁でさばいてみましょう。 やったことがある人はいますかー?」 |
099 | 私 | 【いえ。この際、どうせなら宇宙人さんの言うことも疑ってみましょうか】 |
100 | 私 | 【例えば、たまたまランダムで私のような無害な人間が 選ばれたのではなく、宇宙人さんが意図的に選んでいたとしたら? 『どうせコイツには極端に酷い振る舞いは出来ないだろう』 と、高をくくっているのではないでしょうか】 |
101 | 私 | 【はたまた、宇宙人さんの言っていることが全て嘘で、未発達な下等生物である地球人をからかって、 遊んでいるだけかも知れませんよ?】 |
102 | 私 | 【だとしたら、ずいぶん私も甘く見られたものですね。地球人を代表して、遺憾の意を表明します】 |
103 | 女子生徒 | 「えー、あたし魚触んのマジ苦手なんだよね・・・代わりにやってくんない?」 |
104 | 私 | 「え・・・うん、いいよ」 |
105 | 私 | 【そうでしたそうでした。 おとなしい私をくみしやすいと見てナメているのは、何も宇宙人に限ったことではありませんでしたね。 同じ地球人からも、こうして体(てい)よく扱われているのですから。 情けないったらありません】 |
106 | 家庭科教師 | 「危ないですから、絶対に包丁を持ったまま歩き回ったり、ふざけたりしないで下さいねー」 |
107 | 私 | 【あー、なんだか無性に腹が立ってきました。 いけませんね、このままでは魚をさばく時に余計な力が入ってしまいそうです】 |
108 | 私 | 【そうだ。いっその事、誰かをこの包丁でさばいてみるというのはどうでしょうか? 私は判定代理人。文字通り、この手で裁いてみましょうよ。なんちゃって】 |
109 | 女子生徒 | 「あれ、まだやってなかったの?早くしてくんない?もうこっち準備終わってんだけど」 |
110 | 私 | 【あーもう・・・どうして、そういうこと言っちゃいますかねー。 この人は。人が冗談で済ませようとしている時に・・・間の悪い人は嫌いです】 |
111 | 女子生徒 | 「あ・・・ああ・・・」 |
112 | 私 | 【見てくださいよ。思わず刺しちゃったじゃないですか。それも真正面から、どてっぱらに一突き。 こうなったら仕方ありません。いくところまでいってみましょう】 |
113 | 私 | 「・・・」 |
114 | 私 | 【そうそう。両手で包丁の柄をしっかり支えて、下から突き上げるように相手の体重を乗せるんです。 こうすればホラ、勝手にズブズブと奥へ刺さっていきますから。非力な私でも、問題ありません】 |
115 | 女子生徒 | 「がっ・・・あが、が・・・」 |
116 | 私 | 【良いですね。上手ですよ。その調子、その調子。このまま本当に、三枚におろしてみましょうか?】 |
117 | 男子生徒 | 「な、何やってんだよお前!!」 |
118 | 私 | 【飛び交う悲鳴、逃げ惑う人たち、そして生臭い鉄さびのような臭い。 阿鼻叫喚とは、まさにこの事。 ちょっと反応が遅過ぎる気もしますけど。 この感じ、私が死んだあの時を思い出させる様で、あまり好きになれません。 おかげで私の呼吸と鼓動は、とっくに乱れてぐちゃぐちゃですよ】 |
119 | 私 | 【こういうの、PTSDって言うんでしたっけ? 刺した瞬間のちょっとした爽快感はどこへやら・・・服や顔は汚れるし、心は罪悪感よりも恐怖でいっぱい。 今の気分は、最悪の一言に尽きます】 |
120 | 家庭科教師 | 「みんな離れて!!それと、誰か人呼んできて!!救急車!!」 |
121 | 私 | 【あらあら、みんな私に釘付けですね。 まるで人じゃないものを見るような、そんな酷く怯えた目でこちらを見ています。 それも、ずいぶん遠くから。泣きたいのは私の方なのに。 まったく、酷い人たちです。 どうせなら、ちょっと脅かして怖がらせてみたくなりますね。 今の私になら出来るはず。 昔見た映画でも、地球に飛来した火星人が確かこんな扱いされてたような・・・ 今なら、あの宇宙人さんの苦労も少しだけ分かる気がします】 |
122 | 私 | 【とりあえず重いですね。 腕が疲れてきました。そろそろこの辺で放してあげましょう。 これに懲りたら、次からは気をつけてくださいね? 口は災いの元ですよ。まさに『注意一秒、怪我一生』ですねぇ】 |
123 | 家庭科教師 | 「と、とりあえず落ち着いて。ね?危ないから包丁を置きましょう。 お願いだから、言う通りにして・・・ね?」 |
124 | 私 | 【さてさて、大事な場面ですよ? 次に発する言葉で、私の進退が決まってしまうと言っても過言ではないです。 私が単なる精神異常者か、それとも人類の尊厳の為、この惨状を引き起こした名もなきヒーローなのか。 さあ、決めてちゃってください。一世一代、渾身の決め台詞。せーのっ】 |
125 | 私 | 「ご、ごめんなさい・・・」 |
126 | 私 | 【はぁ・・・まったく】 |
127 | 私 | 【人ひとり刺しておいて、やっとの思いで捻り出せた言葉がコレとは・・・ 我ながら、ボキャブラリーのなさに失望します。 おまけに声も震えていて、恥ずかしいったらありません。 顔から火が出そうです。もっとも、今の私は顔面蒼白ですけど。 もっと他に気の利いた台詞とかなかったのでしょうか? 『ステンレスの味はどうだい?』とか、 『あなたの血の色を確かめただけよ』とか、 『地獄で会おうぜ、ベイビー』とか、 『世界は俺のものだ!』・・・はちょっと違うか。 『どんなときでも身だしなみ』も何だかオツですね】 |
128 | 私 | 【あれよあれよと言う間にたくさんの大人たちに囲まれた私は、 そのまま駆けつけた警察に引き渡されてしまいました。 自分でもびっくりするほど涙が止まらず、さめざめと泣き続けていたのを覚えています】 |
129 | 刑事A | 「裏が取れました。 やはり、この子の姉は二ヶ月前の航空機墜落事故で亡くなっているようです」 |
130 | 刑事B | 「そうか。分かった」 |
131 | 私 | 【刑事さんたちが、何やらひそひそと話していますね。 心配しなくても、もう暴れたりしませんよ? 私は単に、宇宙人さんへのささやかな抵抗を試みただけですから。 なんて、口が裂けても言えないですけど】 |
132 | 刑事B | 「後はこっちに任せてくれ。ご苦労さん」 |
133 | 刑事A | 「はい。自分はこれで失礼します」 |
134 | 私 | 【んー、早く現れてくれませんかね。結果報告が待ち遠しいです】 |
135 | 刑事B | 「それじゃあ、どうしてこんなことをしたのか。教えてくれるかな?」 |
136 | 私 | 【あ、そろそろ来ますよ。宇宙人さんが。 驚いた顔でもしてるでしょうか? それとも、全部おり込み済みでしょうか。 今日は一体誰の体を借りて話すつもりでしょうね。 楽しみです。さあ、聞かせてください。 今回の結果を。銀河ひとつ分くらい変わったんじゃないですか? 遠い宇宙の情勢が】 |
137 | 私 | 「あーあー、テステス、テステス・・・」 |
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